買いつけの旅のエピソード(knoflik篇)
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工場見学が大好きなチャルカ。昔ながらの製法でチロリアンテープを作っている工場があると聞きつければ、訪ねて、この目で見ないわけにはいかないのです。 |
1.たどり着いた村
11月末の寒いある日、ドイツからチェコへ向かった。朝にベルリンを出発して国境を越えたところで下車。そこからローカル列車に乗り換える。地図で見るとそんなに遠くはないのだが、列車は動き出してはすぐに停まるので時間がかかる。学生や買い物のおばさんのおしゃべりをBGMにガタゴト揺られて2時間。さらに車で30分。お目当ての村に着いたときは4時を過ぎていた。まばらな人影。ホテルの宿泊客は私ひとり。夕暮れ時のさみしさも手伝って不安になる。荷物を整理したあと散歩に出掛けた。窓辺の控えめなクリスマス飾りと煙突の煙にほっとした。今日はゆっくり静かな時間を過ごそう。明日はチロリアンテープの会社を訪問する。
2.歴代のサンプル帳
たったひとりのお客のために用意された朝食はふつり合いなほど豪華。おなかいっぱい。
さぁ、工場へ行こう。目的はチロリアンテープ。でも案内の人は「全部見せます」と。まずはサラミのネットを編んでる機械やらフェルトの特殊加工の工程の見学。もともとはチロリアンの工場だけど最近は売れないから、とそっち機械はほんのちょとしか動かしてないそうだ。お昼前になってようやくチロリアンのサンプルルームへ。いったい何種類あるのか、さすが民族衣装の飾りリボンをいってに生産していた工場だけのことはある。鳥肌ものだ。
「うちにしか作れない繊細な模様もあるんだよ。でも最近はそんなことはどうでもよくなっていて、安い輸入物に負けっぱなしでね」。ここにも切ない話があった。
3.まずはデザイン画
どうやって複雑な模様を織りあげてくんだろう?単純な疑問に、サンプルルームの管理者もデザイナーも、気がつけば混じっていたおじさんも、みんなしてニヤニヤ。「順番に見せてあげるから、まぁそうあせらずに」「ここにデザイン画があるでしょ。これを点に分解して升目に色をのせてくのよ」「つまり点で絵を書き直すってわけさ」「へぇ~」コンピュータで読み込んで分析、とかじゃないのね。微妙な色の表現は一目ずつ色替えを指定している。
かつ、へんてこな絵に仕上がらないように、何度も何度も書き直すらしい。しつこいけど、手書きでだ。めんどうくさくないか聞いてみた。「ずっとそうしてきたし、楽しいからいいんだよ」でも、升目に色をおとせるのはサンプルルームのおばさんだけ。そしてそれを機械にかけるカードにできるのはおじさん一人しかいない。
4.パターンをつくる
升目に書かれた絵をもとに、おじさんが板紙に穴をあけてカードを作る。1色1行につきカードが1枚。チロリアンの幅の分だけ各色でカードが必要になる。多いものだと3000枚〜4000枚。これを穴開け機をあやつって1行ずつ絵を見ながら作っていくから、目はしんどいし集中力が不可欠。おじさんが保存版のカードを作ったあと、これのコピーを作って実際にはコピーを使う。「新しいデザインでチロリアンを作りたいならこの人がいるうちよ」とおばさん。それを受けてデモンストレーション中のおじさんが手を止めて、自分の頭を指差した。こう見えてもまだまだ若いよ、という意味なのか、もうこんな歳だから、というこのなのか、どっちだろう?
5.ガシャン、ガシャン
やっと織り機のある工場へ。ガシャン、ガシャンと軽快な音が響く。動いている織り機は2列で残りの4列はお休み。ちゃんと動いているかを見張るおばさんがマグカップを片手に、あっちへ行ったりこっちへ行ったり。ひとりで忙しそうだ。織り機の高さは3メートルはあるだろうか。何色もの糸を使用する柄は、高い所から放射状に糸が広がっていて、今にも飛び立ちそうな雰囲気。糸がなくなったり絡まったりすると機械が止まり、はしごに登って原因を取り除くのもひと苦労。リズミカルな機械の音が復活すると、おばさんはとてもほっとした様子で満足げにうなずいていた。目の前で織り上がっていくチロリアンは見たことのある柄。ドイツの手芸屋で買ったことがある。「あ~これもここで作っていたんだ」
6.飴色の木のパーツ
この織り機は約150年前のもの。部分的に修理はできても同じものを今でも作れるかというとそれは無理。だから手をかけて大事に使い続けているらしい。機械のそれぞれの部分は木でできている。150年間の時間が織り機を飴色に輝かせていて、美しく堂々とした存在感。そんなことに感心しながら織り機を見ていると、出来上がってくるチロリアンはいとおしく、大切な何かを届ける使命をおびいているようにさえ見えてくる。説明によると木製のメリットがあるらしい。柄の風合いがやさしくなるとか。そして糸のからみ方がふっくらとして、色を変えたときの陰影が自然になるそうだ。たった3センチ5センチの幅の糸の行ったり来たりによって生み出される奥深さに、すっかり取り付かれてしまった。
7.おおらか
織り上がったチロリアンはグネグネと箱に入っている。ある程度たまったら明るい部屋に移動させ検品後、ロール状になって出荷を待つ。何種類かできあがったものがテーブルに積み上がっていた。どの柄もまぁまぁかわいく売れそうな表情。でもあの古いサンプルの強烈なデザインを見た後ではどうも物足りない。特に60年代のデザインは大胆で茶目っ気がありおおらかですばらしい。おおらかといえばここで働いているおばさんたち。突然やってきた日本人にひるむことなく、チェコ語で話しかけてくる。お菓子を分けてくれた。あ~その手で商品を触るのか、とちょっと思ったりしたけど、誰も気に留めるでもなくおしゃべりは続く。チロリアンの巻き取りが完了したら場所を変えてお茶タイム。
8.おやつタイムのおしゃべり
もうすぐ3時になろうとしている。働いてる人たちは机に座って一段落。日本から持っていった芋ケンピをあけておやつタイム。デザイナーもパンチングのおじさんも管理のおばさんも、いつのまにか参加してる人たちも、芋ケンピを気に入って日本に興味津々。こんなことならもっと持ってくればよかった。「どうだい、うちの工場は?」「興奮しました!」「そうだろう、そうだろう」自分たちの作るものに愛情を持っている人の言葉は心地よい。優しい日差しが差し込む事務所の窓辺にはセントポーリアが咲いている。ここにあるデザイン全てをコピーしてもらった。さて、どれから頼む?どれぐらいの量を?日本に帰ったらすぐにでもチロリアンテープ屋を始めたいところだが、落ち着いてしっかり考えてからオーダーしよう。そして長く続く関係でありたい。プラハへ行くバスの中でそう思った。



















































